案件が「来ない」のではなく「探しに行っていない」

自社の成長戦略としてM&Aによる買収を検討し始めたものの、「そもそもどうやって買収候補企業の情報を集めればいいのか分からない」という壁にぶつかっていないでしょうか。

年商10〜100億円規模の中堅・中小企業では、M&A専任の部署はおろか、専任の担当者すらいないケースがほとんどです。経営企画担当が本業と兼務しながら情報収集を試み、結果として「良さそうな話が来たら検討する」という受け身の姿勢のまま、数ヶ月、数年が過ぎてしまう会社も少なくありません。

しかし、M&Aで成果を出している買い手企業の多くは、案件を「待つ」のではなく「探しに行く」動き方をしています。
本記事では、買い手企業がM&A案件を見つけるための「ソーシング」を、具体的な方法とステップに沿って解説します。読み終える頃には、自社がどのルートから着手すべきか、そして自社で完結させるべきか外部に任せるべきかの判断軸が持てるはずです。

そもそも「ソーシング」とは何か

ソーシングとは、M&Aにおいて買収候補となる企業の情報を収集し、接触していく一連の活動を指します。良い相手が見つからなければ、その先の交渉もデューデリジェンス(DD)もクロージングも始まりません。M&Aプロセス全体の起点であり、実は最も労力がかかる工程でもあります。

多くの企業がM&Aで最初につまずくのは、実はこのソーシングの段階です。
どこにアンテナを張れば案件情報が集まるのか分からない
良い案件は他社に先を越されてしまう
という声は非常に多く聞かれます。

さらに厄介なのは、ソーシングは一度動けば終わりではなく、継続的な活動だという点です。単発で仲介会社に声をかけたり、プラットフォームに登録したりするだけでは、案件との接点は一時的なものにとどまります。
複数のルートに継続的にアンテナを張り続けて初めて、良質な案件情報が定期的に流れ込んでくる状態になります。

案件を見つける5つのソーシングルート

買い手企業が候補企業の情報を得る経路は、大きく分けて5つあります。
それぞれ特徴が異なるため、複数のルートを並行して使うのが実務上のセオリーです。

1.M&Aプラットフォーム

インターネット上でノンネーム(匿名)の売却案件情報を掲載するマッチングサイトです。
手軽に多数の案件情報に触れられる一方、掲載されている情報だけでは実態が分かりにくく、人気案件には競合が殺到しやすいという特徴があります。

2.仲介会社・M&Aアドバイザリー

仲介会社が保有する非公開の案件情報にアクセスするルートです。
売り手側の窓口となっているケースが多く、良質な情報が集まりやすい反面、複数の買い手候補に同時に打診されていることも多く、スピード勝負になりがちです。

3.士業ネットワーク(税理士・会計士・弁護士)

顧問先の事業承継や売却相談を受けている税理士・会計士・弁護士とのつながりを通じて、水面下の案件情報を得るルートです。
公開前の早い段階で情報を掴めることがあり、関係構築に時間はかかりますが、良質な案件に出会える可能性が高いルートの一つです。

4.金融機関(銀行・信用金庫)

取引先企業の事業承継ニーズを把握しているメインバンクや信用金庫からの紹介です。
融資取引のある地域金融機関は、後継者不在に悩む企業の情報を持っていることが多く、地域密着型のM&Aでは重要なルートになります。

5.直接アプローチ(ダイレクトソーシング)

仲介を介さず、買収したい業界・エリアの企業に対して手紙やメールで直接コンタクトを取る方法です。
競合が少なく好条件で交渉できる可能性がある一方、リスト作成からアプローチ文面の設計、返信対応まで相応の実務工数がかかります。

実務の具体例:ソーシングの歩留まり感

ソーシングの実務感覚を数字で見てみましょう。
一般的に、100件のノンネーム案件に接触して、実際に検討に値するIM(Information Memorandum、企業概要書)を取得できるのは10件程度、そこから成約に至るのはおよそ1件というのが目安です。

さらに、優良案件は情報が公開されてから24時間以内に数十件の問い合わせが殺到すると言われています。
つまり、良い案件ほど「待っている」買い手には回ってこず、常にアンテナを張り複数ルートで動いている買い手が先に接触権を得ているのが実態です。M&A成約までの期間は平均で半年〜1年半程度かかることを踏まえると、ソーシングの初動の遅れがそのまま機会損失に直結します。

仮に譲渡対価3億円規模の案件であれば、仲介手数料が3億円の5%相当の1,500万円、DD費用が200万円、社内人件費が500万円以上かかり、総コストは3億2,200万円ほどに膨らむのが一般的な目安です。こうした費用感を事前に把握しておくことも、案件選定の判断軸を持つうえで欠かせません。

自社でやる場合 vs 外注する場合の比較

5つのルートを理解した上で、次に判断すべきは
これを自社の担当者だけで回すか、外部の力を借りるか」です。

自社で行う場合は、社内にノウハウが蓄積される、社外コストがかからないというメリットがある一方、担当者が本業と兼務することが多く、5つのルートを並行して継続的に動かすだけのリソースを割けないという現実的な壁にぶつかりがちです。「誰がやるか」を明確に決めないまま見切り発車し、担当者一人が疲弊して停滞するケースも少なくありません。

また、いざ候補企業と接点ができても、デューデリジェンス(DD)が形式的なものにとどまり、買収後に簿外債務やキーマンの離職、許認可の引き継ぎ問題などが発覚するといった失敗も、自社完結型の進め方でよく見られるパターンです。ソーシングの入口だけでなく、その後の交渉・DD・PMI(統合後の経営)まで見据えた体制を最初に設計しておく必要があります。

外注する場合は、複数ルートへの同時アプローチや士業・金融機関とのネットワークをすでに持つ専門家の力を借りられるため、案件との接触機会が増え、スピードも上がります。
一方で、コンサルティングだけを提供し実務は自社で巻き取る必要がある会社や、仲介会社のように成約自体がゴールになってしまい買い手の利益より成約優先になりやすい会社もあるため、依頼先の見極めが重要です。

ソーシングから交渉、資料作成、進行管理までを買い手側の実務担当として一気通貫で代行する「M&Aプロセスアウトソーシング(MPO)」という選択肢もあります。売り手から手数料を受け取らず買い手の利益だけを考えて動くため、無理に高値で決めさせるインセンティブがなく、「買わない」という判断も含めてフラットに支援を受けられる点が特徴です。

まとめ

M&Aのソーシングは、プラットフォーム・仲介会社・士業ネットワーク・金融機関・直接アプローチという5つのルートを組み合わせて進めるのが基本です。良い案件ほど競合が多く、待ちの姿勢では埋もれてしまうため、複数ルートを並行して継続的に動かす体制づくりが成果を左右します。

自社の担当者だけで5つのルートを回しきれるか、専門家の力を借りるべきか。
まずは自社のリソースと照らし合わせて、現実的な体制を検討してみてください。

M&Aの実務でお悩みの方へ

株式会社Aspire Partnersは、M&Aによる買収を目指す買い手企業に対し、案件のソーシングから交渉、資料作成、進行管理までを実務担当としてワンストップで代行しています。コンサルティングで終わらず、売り手から手数料を受け取らないフラットな立場で、買い手企業の「社内M&Aチーム」として動く点が特徴です。

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