M&Aの「進め方」を知らないまま動き出すと何が起きるか

「M&Aで会社を買いたい」「事業拡大のために買収を検討している」——
そう考え始めたものの、実際に何から手をつければいいのか分からず、時間だけが過ぎてしまっている経営者・経営企画担当の方は少なくありません。

M&Aの買収プロセスは、一般的な設備投資や採用活動とは進め方がまったく異なります。関わる専門領域が財務・法務・税務・労務と多岐にわたり、しかも案件ごとに状況が違うため、「教科書通り」には進みません。だからこそ、全体のステップを最初に押さえておくことが、失敗を防ぐ最短ルートになります。

この記事では、買い手企業がM&Aを進める際の標準的なステップを、実務の具体例を交えながら解説します。あわせて、自社だけで進める場合と外部の力を借りる場合の違いも整理しますので、これからM&Aに着手する方の判断材料にしていただければと思います。

買収成立までの6つのステップ

M&Aの買収プロセスは、大きく分けて次の6つのステップで進みます。
成約までの期間は案件の規模や難易度にもよりますが、一般的に約6ヶ月〜1年半が目安です。

ステップ1 戦略立案・買収方針の策定

まず、「なぜ買収するのか」「どの領域の会社を買うのか」を言語化します。売上規模、エリア、事業シナジー、予算上限などの条件を具体的に定義しておかないと、後の候補企業探索の精度が落ち、時間だけを浪費することになります。

ステップ2 ソーシング(案件探索)

条件が固まったら、買収候補企業を探すフェーズに入ります。
ソーシングのルートは主に5つあります。

  • M&Aマッチングプラットフォーム
  • 仲介会社経由の紹介
  •  税理士・会計士など士業ネットワーク
  • 金融機関からの紹介
  • 直接アプローチ(いわゆるダイレクトソーシング)

ここで重要なのは、1つのルートだけに依存しないことです。プラットフォームだけを見ていると、優良案件は公開から24時間以内に数十件の問い合わせが殺到し、条件面で見劣りする買い手は早々に検討対象から外れてしまいます。複数ルートを並行して動かせるかどうかが、良い案件に出会える確率を大きく左右します。

目安として、ノンネームベースで100件程度に接触し、そのうち詳細情報(IM)を検討するのが10件、最終的に成約に至るのが1件、という歩留まりが一般的です。この数字からも分かる通り、「待ちの姿勢」では案件は集まりません。

ステップ3 初期検討・トップ面談

候補企業が見つかったら、ノンネーム情報・IM(インフォメーション・メモランダム)をもとに初期検討を行い、条件が合えば経営者同士のトップ面談に進みます。ここでの印象や信頼関係の構築が、その後の交渉の土台になります。

ステップ4 基本合意・デューデリジェンス(DD)

トップ面談を経て前向きな感触が得られれば、基本合意書を締結し、デューデリジェンス(買収監査)に入ります。DDでは財務・税務・法務・ビジネスの各観点から対象企業を精査し、簿外債務やキーマン人材の離職リスク、許認可の問題などを事前に洗い出します。

DD費用はスコープの設計次第で変動しますが、対象を絞り込めば100万〜300万円程度に圧縮することも可能です。逆に言えば、DDを形式的に済ませてしまうと、買収後に想定外の負債や問題が発覚するリスクが残ります。

ステップ5 最終契約・クロージング

DDの結果を踏まえて条件を最終調整し、株式譲渡契約などの最終契約を締結、決済(クロージング)を迎えます。

ステップ6 PMI(統合プロセス)

契約が完了しても、そこがゴールではありません。買収後の統合プロセス(PMI)を計画的に進めなければ、シナジーが発揮されないばかりか、組織の混乱や人材流出を招くこともあります。PMIを「契約後に考える」のではなく、DDの段階から準備しておくことが重要です。

ステップを踏んでいても失敗する典型パターン

ステップそのものは理解していても、進め方を誤ると失敗につながります。買い手企業の現場でよく見られるのが、次のようなパターンです。

リスク判断を一人で抱え込み、決断できない

DDで気になる点が見つかったとき、「これは許容範囲なのか、撤退すべきなのか」を経営者一人で判断しようとすると、判断材料が整理されないまま時間切れになりがちです。撤退する勇気も、進める決断も、根拠となる情報が整理されていて初めて下せます。

仲介会社に任せきりで、成約ありきになる

仲介会社は成約して初めて報酬が発生する構造のため、案件を進める力学が働きやすい面があります。買い手の立場に立って「本当に買うべきか」まで踏み込んで検討してくれるかどうかは、案件によって差があります。

PMIを契約後に考え始める

クロージングをゴールと捉えてしまうと、統合後の体制や業務フローの設計が後手に回ります。結果として、買収した会社の従業員が離職し、期待していたシナジーが得られないまま終わることもあります。

実務の具体例で見るコスト感

例えば譲渡対価3億円の案件を仲介会社経由で進めた場合、譲渡対価3億円に加えて、仲介手数料が対価の5%程度(約1,500万円)、DD費用が200万円程度、さらに社内の人件費(担当者の稼働コスト)が500万円以上かかることも珍しくありません。合計すると、実質的な取得コストは約3億2,200万円に達する計算です。

仲介会社の報酬体系は案件規模に関わらず最低報酬1,000万〜2,500万円程度に設定されていることが多く、案件規模が小さいほど手数料の負担割合は重くなる傾向があります。

自社で進める場合 vs 外注する場合

観点自社で進める外部に実務を委託する
専任担当者1〜2名が兼務するケースが多く、疲弊しやすい実務全体を伴走してもらえる
DDの質形式的になりがちでリスクの見落としが起きやすいスコープ設計から相談できる
意思決定の負荷経営者が孤独にリスク判断を迫られる判断材料を整理した上で経営者が決断できる
PMI 後回しになりやすいクロージング前から準備できる

自社だけで進める場合、担当者を「誰にするか」を決めないまま見切り発車してしまい、通常業務と兼務する担当者が疲弊して案件が停滞する、というケースが実務ではよく見られます。
また、一人で抱え込んでリスク判断をしようとすると、決断すべき局面で足がすくみ、良い案件を他社に先を越されてしまうこともあります。

まとめ

買収を成功させるためには、戦略立案からソーシング、DD、クロージング、PMIまでの一連のステップを俯瞰し、それぞれのフェーズで何を準備すべきかを事前に把握しておくことが欠かせません。特にソーシングとDDの質は、案件の成否とその後のリスクを大きく左右します。

M&Aは決して「一度きりの取引」ではなく、準備・実行・統合までを見据えた一連のプロセスです。だからこそ、自社のリソースだけで無理に進めようとせず、必要な部分は外部の実務支援を活用するという選択肢も検討する価値があります。

私たち株式会社Aspire Partnersは、買い手企業の「社内M&Aチーム」として、案件探索(ソーシング)から交渉、資料作成、進行管理までM&A実務をワンストップで支援しています。売り手から手数料をいただかない立場で、買い手企業の利益だけを考えて動く点が特徴です。買うべきかどうかの判断も含めて伴走しますので、「進め方が分からず一歩を踏み出せない」という段階からでもご相談いただけます。

M&Aの進め方について詳しく知りたい方は、ぜひ一度サービス内容をご覧ください。