「総額いくら用意すればいいか」が読めないまま検討を進めてしまう

買収を検討し始めた経営者から最も多く聞かれる質問は、実は候補企業の探し方でも交渉術でもない。「結局、総額いくら用意すればいいのか」である。
譲渡対価(買収価格そのもの)は案件ごとに違うため見積もりにくいが、それ以外にも仲介手数料やFA報酬、DD(デューデリジェンス)費用、社内人件費など、複数の費目が積み上がって初めて実際の総予算になる。
ここを事前に整理せずに検討を始めると、途中で「想定外の費用」が次々に出てきて、稟議のたびに差し戻しになる、という事態に陥りやすい。
この記事では、M&Aの予算を構成する5つの費目を整理し、それぞれの相場観と、予算を組む際に押さえておくべきポイントを解説する。

M&Aの予算を構成する5つの費目

M&Aの予算は、大きく分けて次の5つで構成される。

1. 譲渡対価
2. 仲介手数料・FA報酬
3. DD(デューデリジェンス)費用
4. 社内人件費
5. その他予備費(登記関連費用・表明保証保険・PMI初期費用など)

このうち1〜3は案件ごとに外部への支払いとして発生し、4は社内で見えにくい形で発生する。5は見落とされがちだが、成約後のトラブルに備える意味で軽視できない項目である。以下、順に見ていく。

1. 譲渡対価

予算の中で最も金額の大きい項目であり、かつ最も幅が出やすい項目でもある。評価方法には、将来の収益力から逆算するDCF法、類似の取引事例や上場企業の指標と比較するマルチプル法、貸借対照表の純資産をベースにする純資産法などがあり、同じ会社でも評価方法によって数字が変わる。
ここで注意したいのは、売り手が提示する価格をそのまま予算の前提にしてしまうリスクである。人気案件ではある程度仕方ない部分はあるが、売り手側の希望価格は交渉の出発点にすぎず、買い手側が独自にバリュエーションを行わないまま予算を固定すると、後の交渉で「動かせない上限」を自ら作ってしまうことになる。

2. 仲介手数料・FA報酬

仲介会社を通す場合、手数料は譲渡対価に応じた料率(レーマン方式)で決まることが多く、3億円規模の案件では1,500万円前後(対価の5%目安)が一つの目安になる。ただし多くの仲介会社は最低報酬を設定しており、1,000万〜2,500万円程度が相場のため、案件規模が小さくても一定額は必ず見込んでおく必要がある。

3. DD(デューデリジェンス)費用

財務・法務・税務・ビジネスの各領域で行うDDの費用は、スコープを絞り込めば100万〜300万円程度に圧縮できる。逆に言えば、範囲を広げるほど費用は膨らむため、「どこまで調べるか」の線引きが予算に直結する。
ただし、費用を抑えることだけを目的にスコープを削ると、簿外債務やキーマンの離職リスク、許認可の承継問題といった、成約後に顕在化するリスクを見落とす原因になる。DD費用は「削れるコスト」ではなく「リスクとのトレードオフで決める投資」だと捉えた方が、結果的に予算全体を守ることにつながる。

4. 社内人件費

見落とされやすいが、案件探索から交渉、DD対応、契約書確認までの一連の実務に社内担当者の工数を割く以上、そこには人件費が発生している。目安としては500万円以上を見込んでおきたい。この項目は請求書が来ないため予算として意識されにくいが、担当者が本来業務を止めてまで対応する以上、実質的なコストであることに変わりはない。
ここで整理しておくべきなのは、この「実務にかかる工数」を自社で担うか、外部の実務代行にアウトソースするかという選択である。これは仲介・FAを使うかどうかとは別軸の判断であり、社内に専任担当者を置けるかどうかで予算の組み方が変わってくる(詳しくは後述する)。

5. その他予備費

登記関連費用や契約書に関わる実費に加えて、近年は表明保証保険(売り手の表明・保証違反が発覚した際の補償を保険でカバーする商品)を予算に組み込む買い手も増えている。また、成約後のPMI(統合作業)には、初期段階だけでも一定の予算が必要になる。
これらは案件が成約するまで具体的な金額が見えにくいため、総予算の5〜10%程度を予備費として確保しておくと、想定外の費用が出た際に稟議をやり直す事態を避けやすい。

具体例:3億円規模の案件の予算イメージ

譲渡対価3億円の案件を例にすると、仲介手数料1,500万円、DD費用200万円、社内人件費500万円を積み上げた場合、総予算は約3億2,200万円になる。ここに予備費(総額の5%程度とすると1,600万円前後)を加味すると、実際に手元で確保しておきたい金額は3億3,800万円前後に膨らむ。
譲渡対価そのものだけを見て「3億円の買収」と捉えてしまうと、実際に必要な予算との間に3,000万円以上の差が生まれる。この差を稟議の後半で初めて認識し、追加の承認を取り直すことになった、というのはM&A初挑戦の企業でよく起きる失敗パターンである。

実務(案件精査・進行管理)は自社対応かアウトソースかの2択

予算の4番目の項目である社内人件費に関連して、もう一つ整理しておきたいのが「実務を誰が担うか」という論点である。ここでいう実務とは、候補企業の精査、資料作成、交渉補助、DDの進行管理といった、買収を前に進めるための実作業を指す。
この実務を担う方法は、社内で対応するか、外部の実務代行にアウトソースするかの2択であり、仲介やFAとは別の判断軸になる(仲介・FAはあくまで実務そのものを代行するものではない)。
自社で実務を担う場合、予算上は人件費として計上されるが、実際には担当者の本来業務を圧迫する形で発生するため、見えているコスト以上の負担が社内にかかりやすい。専任担当者を置ける体制がなければ、案件が来ても検討が滞り、優良な案件を他社に先を越されるという機会損失にもつながる。
外部の実務代行にアウトソースする場合、費用は予算上に明示的な項目として現れるが、案件探索から資料作成、DD管理までを任せられるため、社内の工数を圧迫せずに検討を進められる。予算を組む段階では「見えるコスト(実務代行費用)」と「見えにくいコスト(社内人件費・機会損失)」を並べて比較し、自社の体制に合った方を選ぶことが重要である。

よくある質問(FAQ)

Q. M&Aの予算はどの段階で確定させればよいですか?
A. 譲渡対価は交渉が進むまで確定しないため、検討の初期段階では「仲介手数料・FA報酬・DD費用・人件費・予備費」の4項目だけでも先に概算を出し、譲渡対価は複数のシナリオ(下限・想定・上限)で幅を持たせておくと、稟議が通しやすくなる。

Q. DD費用を抑えつつリスクも見落としたくない場合はどうすればよいですか?
A. 財務・法務など全領域を一律に深掘りするのではなく、業種や案件の特性に応じて重点領域を絞り込むことで、費用とリスクのバランスを取ることができる。スコープの絞り込みには一定の経験が必要なため、実務代行やDD専門家に相談しながら決めるのが現実的である。

Q. 予備費はどのくらい見ておけばよいですか?
A. 目安として総予算の5〜10%程度である。表明保証保険やPMIの初期費用など、成約が近づくまで金額が読みにくい項目があるため、余裕を持たせておくと稟議のやり直しを防げる。

まとめ

M&Aの予算は、譲渡対価だけでなく、仲介手数料・FA報酬、DD費用、社内人件費、予備費という5つの費目を積み上げて初めて全体像が見える。特に社内人件費は請求書が来ないために見落とされやすく、実務を自社で担うか外部にアウトソースするかによって、予算の組み方そのものが変わってくる。

株式会社Aspire Partnersでは、案件探索から交渉補助、DD管理、資料作成までを買い手企業の「社内M&Aチーム」として代行しており、予算を組む段階から実務にかかるコストを明確にした上で検討を進められる。売り手から手数料を受け取らない立場のため、無理な予算での成約を勧めることもない。M&Aの予算建てに不安がある方は、下記サービスページから詳細をご覧いただきたい。

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